本の旅

『ビーグル号航海記』の児童版では準主役の登場人物

自分が初めて読んだ『ビーグル号航海記』は、偕成社の少年少女世界の名著【6】だったが、大人になったら買い揃えようと思ってたのに絶版になってて、これを古本屋で見つけた時には、まるで幻の秘宝を発見したかのように歓喜した

偕成社の少年少女世界の名著【6】『ビーグル号航海記』

  • 訳者のことば〔白木茂〕
ブラジルの大自然
ビーグル号出航
ベルデ岬諸島へ
熱帯の大森林
ブラジルの奥地で
あわれな奴隷たち
アリの大群
虫の大コーラス
ガウチョ人の国へ
モンテビデオめざして
みごとな早わざ
巨大な動物の化石
インディアンとのたたかい
パタゴニアの動物たち
草原をこえて
ブエノスアイレスへの旅
大アザミ
ジャングルの猛獣
荒馬の訓練
思いやりのない人たち
巨獣の墓場
フェゴ島のやばん人
3人のフェゴ人
フェゴ人たちの故郷
サンタクルス川探検
巨人のすむ国
アンデス高原をゆく
金塊さがし
サンチアゴの金山
草でつくった寝床
アザラシの島
夜空にかがやく火
チリの大地震
むごたらしい廃墟
大地震のつめあと
アンデスの赤い雪
頂上で発見したもの
秘境のガラパゴス
前世紀の怪物
ガラパゴスでの発見
美しいタヒチ島
オーストラリアの動物
サンゴ島の冒険
巨大なシャコ貝
一路故国へ
  • 解説「ダーウィンと『ビーグル号航海記』」〔篠遠喜人〕

主役はもちろんビーグル号に乗船したダーウィンだが、準主役のキャビンボーイの少年ジョーンズとの、冒険物語仕立てになってるのは、児童書だったので子供にわかり易く話を進めるため、訳者の白木茂が原典には無かったジョーンズとの会話を補足したからだった

そうとは知らずにジョーンズ少年に愛着を感じてたが、四十路も過ぎてから児童版では無い『ビーグル号航海記』を読んでみて、ジョーンズ少年が出て来なくて、どれほど失望したコトか!!

平凡社の荒俣宏訳『新訳 ビーグル号航海記』

ジョーンズ少年が出て来なかった以外は、大好きな荒俣宏訳でもあるので、『新訳 ビーグル号航海記』に文句は無い

上巻¥2,300、下巻¥2,400という価格設定も、本文が完訳なのはもちろん注釈も充実してて、索引あり、下巻巻末には年表と地図付き、そしてあとがきでは出版事情についてもあるので、お得過ぎるように思える

上巻

  • 序文
第1章 サンチャゴ島――ベルデ岬諸島
第2章 リオ・デ・ジャネイロ
第3章 マルドナルド
第4章 ネグロ川からバイア・ブランカへ
第5章 バイア・ブランカ
第6章 バイア・ブランカからブエノス・アイレスへ
第7章 ブエノス・アイレスからサンタ・フェへ
第8章 バンダ・オリエンタルとパタゴニア
第9章 サンタ・クルス川、パタゴニア、フォークランド諸島
第10章 フエゴ島
第11章 マゼラン海峡――南海岸の気候

下巻

第12章 中央チリ
第13章 チロエおよびチョノス群島
第14章 チロエ島とコンセプシオン――大地震
第15章 コルディエラの峠道
第16章 北部チリとペルー
第17章 ガラパゴス諸島
第18章 タヒチとニュージーランド
第19章 オーストラリア
第20章 キーリング島――サンゴ礁の形成
第21章 モーリシャス島からイングランドへ

カナリア諸島はスペイン領

ビーグル号が出帆したのは1831年12月27日で、イギリス南西部のデボンポート(プリマス)から、アフリカ大陸方面へ向かい、1832年1月6日にテネリフェ島に着くも、イギリスでコレラが流行ってると言う理由で上陸は拒まれた

偕成社の児童版『ビーグル号航海記』にはご丁寧に地図が載ってて、アフリカ大陸の上端の左側に「カナリア諸島」とあり、その内の1つに「テネリフェ島」とあって、デボンポートからテネリフェ島へ、そして次の目的地のベルデ岬諸島へ、更にブラジルのバイア(サンサルバドル)までの航路が記されてた

この図が頭に入ってたため、ずっとカナリア諸島は国としてはアフリカのどこかだと思ってたが、2015年にラ・リーガのプリメーラにラス・パルマスが昇格した際に、初めてカナリア諸島がスペイン領なのだと知った

ちなみにラス・パルマスは、グラン・カナリア島の首都ラス・パルマスを本拠地としてるチーム

それが2017年には柴崎岳がセグンダのテネリフェに入団したもんだから、「なななんと~!ダーウィンが上陸できなかったあのテネリフェ島!!」と、殆どの人には意味不明に独り言ちたのだった

テネリフェ島の名が付いたテネリフェレースとか、グラン・カナリア島のカナリア刺繍とか、独自の手芸文化があると知ったのは近年になってからだ

ダーウィンがビーグル号で航海中に読んだ本

ジョーンズに化石について説明をするダーウィンが、恩師ヘンスローから船の中で読むようにと渡されたライエルの地質学の本に、化石の成り立ちについて書いてあると言及してるが、注釈を見ても本のタイトルが何かは不明だ

それが『地質学原理』だと知ったのは、進化論にハマって片っ端から関連本を読んでた時で、見付けた時はえらく感動したのを覚えてる

しかしそうとわかっても、三省堂にも新宿の紀伊國屋にも八重洲ブックセンターにも無く、日本語で読むのは諦めつつも英語版を買うには至らず

そのワリに2005年に大久保雅弘による抄訳が、『地球の歴史を読みとく』として古今書院から出るも、「抄訳かよ」とか文句付けて買わず

続けて2006年にジェームズ・A・シコードの『ライエル地質学原理』が、朝倉書店から河内洋佑訳で出るも、上下巻セットで1万円超えの値段にビビって買わず(買えず)

しばらく様子見で、上下巻セットが古本で3千円以内で出たら買おうとか目論んでたが、2千円以内で買ったのは『地球の歴史を読みとく』だった

フランスの博物学者キュビエ

書き直し中(2023/11/18)

セント・エルモス・ファイアー

ブラジルのリオデジャネイロ港から、2,000km南にあるモンテビデオに向かったビーグル号が、ラプラタ川の河口付近で不思議な自然現象に遭遇するが、それがセント・エルモス・ファイアーだ

偕成社の児童版では「セントエルモの火」とされてて、次のように説明されてる

それは大自然がうんだ花火とでもいったらいいかもしれない。マストの先も、帆げたのはしも、青白い火でいちめんにもえあがったのだ。~中略~セントエルモというのは、大むかしのシリアの僧正セント=エラスムスの名がなまったもので、この僧正は、海をいく船乗りたちをまもる聖者になったといわれている。

注釈にはこれが放電現象だとかの説明はあるも、セント・エルモの名がなぜ冠されてるのかについては無くて、ずっともやもやしてたのだ

それが『St. Elmo's Fire (Man In Motion)』なんて映画が公開されて、タイトルになってるくらいだから、セント・エルモの火の伝承が明かされると期待して観たが、エミリオ・エステべス演じるカーボがバイトしてる店が、セント・エルモス・バーなだけだった

いや、ビリー(ジュード・ロウ)の台詞にも、セント・エルモの火って出てくるけど、これがまた言ってるコト自体が意味不明なんだわ

まあブラット・パック総出演みたいな映画だから、学術的要素を求める方が間違ってて、純粋に愉しめばいんだわよ

主題歌も良かったし、デイル(アンディ・マクダウェル)着用のニットが素敵だったしね

セント・エルモの火に話を戻すと、荒俣宏訳の『新訳 ビーグル号航海記』を買った時も、まずはセント・エルモの注釈から読み始めたけど、これが期待外れ

自分が知りたいのは、なぜセント・エルモが航海の守護聖人になったのかなのだが、そのいきさつはやっぱり無くて、ちなんで付けられたとしてるだけだった

それでもさすが荒俣宏だけのコトはあって、この現象がプリニウスの時代からあったとしてた

プリニウスの『博物誌』を探してみたら、第2巻 <宇宙・気象・地球>にあった

星の軌道逸脱
「カストル星」について
~前略~航海中星が声に似た音を立てて、帆桁やその他の部分に下りて、鳥のように止り木から止り木へと跳ぶのを見た。~中略~そういう星が2つあれば、それは安全のしるしで、航海成功の前触れだ。そしてそれらが近付くとヘレナと呼ばれる恐ろしい星を追い払うということだ。そういうわけで、それらはカストルとポルクスと呼ばれ、

あったけど、セント・エルモの火ではなくってよ

カストルとポルックスは星座のふたご座の2人のラテン名で、ギリシア語ではカストールとポリュデウケス

ギリシア・ローマ神話では、ゼウスが白鳥に化けてスパルタ王妃レダを襲って出来た子で、白鳥だったからか卵を産むのだった

しかも産んだ卵は1つではなく2つ(もしくは4つ)で、生まれた子供は2組の双子だったのだが、それがカストールとポリュデウケス、そしてヘレネ(ヘレナ)とクリュタイムネストラだった

ヘレネと言えば世界一の美女と名高いが、恐ろしい星とされてるのは、確かにヘレネが航海して辿り着いたトロイは、ギリシア軍に殲滅させられたからな

で、結局、セント・エルモの火の伝承は謎のまま・・・